シナリオ・センターの代表・小林幸恵が、出身ライターの活躍や業界動向から感じたことなど、2006年からほぼ毎日更新している日記です。
シナリオ・センターの小林です。
3月3日日曜日は、雛祭りだというのに、無粋な男性ばかりが揃った(笑)達人の根っこ番外編でしたが、素晴らしいお話をお聴きできて、最高に幸せな時間でした。ノンフィクションライターの石井光太さんをナビゲーターに、ゲストは脚本家の君塚良一さん。もうひとりのナビゲーターには柏田副所長。君塚さんには、昔々10数年前にシナリオ・センターでもご講義をいただいたことがあり、その時のお話いただいたシナリオ作法はとてもわかりやすく楽しく拝聴させていただいたことを覚えています。
今回は、君塚さん脚本・監督の映画『遺体 明日への10日間」を中心としたお話をしていただきました。原作はナビゲーターもしてくださっている石井光太さんの「遺体 震災、津波の果てに」(新潮社刊)ですから、お二人のお話の熱さは尋常ではありません。
この映画は、釜石の遺体安置所のお話です。ドラマですが、ある種のドキュメンタリーでもある素晴らしい映画です。被災者の方々に「事実はわからないだろうけれど真実は曲げないで」と言われ、君塚監督は、自分の生き様として覚悟して創られたそうです。
石井さんの本は、事実をそのまま書かれています。忠実に守りながら、俳優さんには自分の感じたように演じてもらったそうです。ともかく嘘の反応をしないでほしいと。なので、志田未来さんが背中を向けてしまったり、西田さんが「なんだこれ」といったり、俳優さん自身が感じたまま、演出の効かない映画つくり。俳優さんも自身をさらけだす覚悟のある方々に出演していただいたとか。俳優さんが追体験してでてきた言葉をそのまま使われた。西田敏行さん、佐藤浩市さん、緒方直人さん、柳葉敏郎さん、酒井若菜さん・・・etcetc。事実ではないけれど真実の言葉なんですね。
この映画から、人としてどう生きるべきか、考えるべきかと問われた気がします。辛い映画ですが、是非ご覧下さい。でも、「明日への十日間」とつけたサブタイトルでもわかるように、人がどんなに暖かいものかも感じられる映画です。
この講座で石井さん、君塚さんから、プロ目指すなら「腹くくって、自分をさらけ出せ」とおふたりに殴られた想いでした。
石井さんは、「自分がやらなければ、自分を自身を否定しまうから創り続けている」「ある意味、やらねば自分が死んでしまう」と。「人の温かさ、美しさを描きたい」とおっしゃっていました。
君塚良一さんは、脚本家として「常に自分に問いかけて作っている。何故創りたいのか、何故感じるのか・・・自分をさらけだす」と。
映画「遺体」は、自分自身の生きざま、今後もずーっと被災者の方々と被災地をみつめながら生きていくとのこと。お二人の物書きとしての姿勢から、書くということがいかに生半可なことではないかということを教えていただきました。
書くことは、自分自身と向き合うことですし、そして読んでもらう、観てもらうことは、自分自身のすべて責任です。どんな書き方にしろ、自分自身でしかないですから。3月8日から、「観客を楽しませる長編シナリオ講座」が始まりますが、書き手として、何を創りたいのか、何故創りたいのか・・・とことん自分自身に問いかけていきながら、自分が描きたい世界をしっかりと見つめて、長編に取り組んで欲しいと思います。
「安置所でも、撮影でも、一人一人ができることを必死にやっていたら、自然と調和がとれた」君塚さんのこの言葉に、人が生きることの意味が見えた気がしました。